やきもの随想

「一焼き、二土、三細工」



粘土の来歴
土にも個性が
稲藁の痕
弥生の土(1)
弥生の土(2)
難波津焼



造形方法
美の背景
ビールマンとフォスベリー、そして末續慎吾


釉薬とは
灰の不思議
灰汁



焼成方法
火=炎の力




陶芸とやきもの
偉大な韓国人
感性的感情
劫の想像力
水晶を飼う



劫の想像力


囲碁の用語に『劫』というのがあります。『劫』の形になると、白石と黒石が交互に相手の1目を取り合うことになって、無限に1目の取り合いが続きます。この『劫』を解消するのに劫立てというルールがありますが、説明は省略します。

 ところで実際には、『劫』はどのくらいの長さの時間を示すのでしょうか?
手もとの小学館の日本大百科事典によりますと……
《サンスクリット語カルパkalpaの音写「劫簸(ごうは)」の略。仏教やインド思想で、共通の年月月日では算出することのできないとてつもなく長い時間をいう。
そのことを仏典では、芥子劫といわれる比喩で説明している。それは、一辺が一ヨージャナyojana(由旬(ゆじゅん)。約7キロ)の立方体の大城に芥子劫を満たし、長寿の人が100年に一度きてそれを一粒ずつ取り出してついに芥子劫がなくなっても、なお劫は尽きないというのである。「未来永劫」とはこのような長大な時間をさす。刹那の反対語。》
 また以前調べたところでは、《天女が1年に一度、地上に舞い降りてきて一辺が1メートルの立方体の大理石の上面を、絹の衣の袖でひと撫でして天に舞い戻る。これを2年、3年と繰り返して絹との摩擦によって大理石が消滅するまでの時間を1劫と呼んだ》というものだったように記憶しています。
芥子劫にせよ大理石にせよ、目もくらむばかりの宗教的?文学的?想像力です。
そしてすばらしいのは、その表現が実感をともなって私たちに伝わってくるということです。

 私たちの寿命は伸びたとはいえ、100年に満ちません。
太陽系の年齢が48億年、わが銀河系は150億年といわれています。そしてわが銀河系の周囲には1000億個以上の銀河が広がり、150億光年の空間的広がりがあるそうです。時には、夜空を仰いで宇宙の年齢、空間の広がりに空想の矢を放ち、思いのままに自身を遊ばせることも大切なことでしょう。そして、そこから聞こえてくる声に耳を傾けたいものです。
 また数学の表現力(概念)もすさまじいものがあります。
一・十・百・千・万・億・兆・京……/無限大/小数/無理数/……。
宇宙のスケールに匹敵します。掛け算、とりわけ階乗の計算を味方につければ、宗教的?文学的?想像力に負けてはいません。

鑑賞する場合でも、制作する場合でも「劫の想像力」などの極限に向かう想像力を駆使することで、ふだんとは違う別の意味をもった世界が見えてきたり、表現できたりするのではないでしょうか。実感をともなって。




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