やきもの随想

「一焼き、二土、三細工」



粘土の来歴
土にも個性が
稲藁の痕
弥生の土(1)
弥生の土(2)
難波津焼



造形方法
美の背景
ビールマンとフォスベリー、そして末續慎吾


釉薬とは
灰の不思議
灰汁



焼成方法
火=炎の力




陶芸とやきもの
偉大な韓国人
感性的感情
劫の想像力
水晶を飼う

稲藁の痕


おもしろい土に出会いました。
焼くと器の表面に溝のような細長い凹みができるのです。その凹みのなかに釉薬が入ることもあれば、釉薬が入りきれずに土肌をそのまま残したまま窪んでいるところもあります。
『この凹みはいったい何だろうか?』と不思議でした。

そもそもこの土は、小さな田んぼを農業機械が入りやすいように大きな圃場に作り変える工事をしている現場からもらってきた粘土です。
もらって来たままの状態では、粘土に小石や礫などが混じっていて使いにくいので使いやすい粘土にする必要があります。
そのためにはまず、水を大量に含んでいる粘土を拳大の大きさにし、乾燥させて水分を抜きます。次に乾燥した土を石臼に入れて木槌でくだきます。木槌でたたけばたたくほど細かい粒子になります。たたく過程で小石などは取り除きます。最後に残った粒子を篩に通して粘土の粉末ができあがります。この粉末に水を加えて、よく練ればやきものに適した粘土になるわけです。実際にはこの状態でビニールに包みしばらく放置して、粘り気を増してから使います。

この粘土のどこに凹みの原因があったのでしょうか?
粘土は田んぼの深いところのものですが、なかには稲藁も混じり、それを木槌でたたいているうちに微小となって粗い目の篩を通り粘土の粉末に混じったものと推測しました。あらためて乾燥した粘土の固まりを調べて見ると、1p程度の黒っぽい変色した稲の茎が腐らずに入っています。
『やはりこれが原因だったんだ!』と思い、推測が正しかったことで何かをやり遂げた気分になっていました。
しかし、よく考えて見ると稲の茎の数はわずかです。実はこれが原因ではなかったのです。木槌を見ると先がささくれだっています。間伐材の杉を使った木槌に問題があったのです。
そのおかげでおもしろいやきものができあがりました。

それから数か月が経って同じ作業をしました。よく観察すると目の細かい篩は稲藁を通していますが、杉の木片は通しません。しかし目の荒い篩からは土の粉末や小さな礫といっしょに木片が落ちていました。






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