やきもの随想

「一焼き、二土、三細工」



粘土の来歴
土にも個性が
稲藁の痕
弥生の土(1)
弥生の土(2)
難波津焼



造形方法
美の背景
ビールマンとフォスベリー、そして末續慎吾


釉薬とは
灰の不思議
灰汁



焼成方法
火=炎の力




陶芸とやきもの
偉大な韓国人
感性的感情
劫の想像力
水晶を飼う

火=炎の力

私たちがふだん目にする《火=炎》にはどんなものがあるでしょう?

ガスコンロの火、ライターの火、マッチの火、ろうそくの火、ちょっといなかでは落ち葉焚き、正月のとんど焼き…。キャンプファイヤーでは火が主役です。オリンピックの聖火も太陽から採った火です。

人類が登場したときから《火》はあったと思われます。寒いときは暖を採り、食べ物の煮炊きに使い、暗い夜は明かりとして、獣から身を守る役割もあったでしょう。そんな情景を思うとき、大勢の人達の中心に《火》があったのではないでしょうか。
暖を採りながら、食べ物を食べながら、語り合いながら人類は《火》を眺めつづけて来たのです。《火》を眺めながら何を思ったことでしょう?《火》には大勢の人達の気持ちをひとつにする魔力も潜んでいるようです。

ところが歴史が下るにつれ、人類は《火》から熱と光を取り出します。熱は炭やタドン、ストーブ、ヒーター、電子レンジ、IHヒーターへと、光はローソク、ガス灯、電灯へというふうに特殊化してきました。それぞれに発展した熱と光は現代の生活を支えています。

ところが火はほとんどの人にとって関わりの薄い存在になりつつあります。人は火の魔力を本能的に欲求しているのではないでしょうか。キャンプファイヤーを思い浮かべてください。夜、赤々と燃え上がる《火=炎》に、現代文明が置き忘れてきた人間本来の感情が呼覚まされます。夜の暗さのなかで一層、《火=炎》の本性が浮かび上がってきます。

登り窯や窟窯(あながま)は木を燃やした《火=炎》が嵐となって窯の中を走り抜け、炎の暴力が直接土を襲います。破れた窯からは火があふれます。温度が上がるにつれ赤い炎が、橙色、オレンジ色、黄色、白色、そして発光する白色へと変わっていきます。そこにあるのは、日常では見ることのできない火の色、火の動き、火のエネルギーです。
窯の《火=炎》は、人を和ませ、なぜか澄んだ気持ちにさせてくれます。いつまで見ていても見飽きません。薪を燃やす登り窯や窟窯が廃れないのはこんなところにもありそうです。





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