蟻地獄 | ||||
蟻地獄 イトトンボ 山本家のメダカ |
工房のよく乾いた地面に蟻地獄が棲みつくようになって何年になるだろうか。狭い面積にかなりの数の蟻地獄たちが住んでいる。 2〜3年地中で生活し、地中で繭をつくり蛹になって、しばらくして巣立っていく。蟻地獄は羽化するとウスバカゲロウになる。 蟻地獄の巣は直径1p位のものから、大きなもので5p位のものもある。すり鉢状をした捕獲装置の底に身を隠して、獲物を待っている。獲物がそんなに往来するとは思えないが、辛抱強く待っている。 |
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![]() ちょっと小ぶりの蟻地獄の捕獲装置 |
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![]() 土にもおが屑にも砂にも巣を造る。写真はおが屑に作った巣。 |
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「あ〜あ、おなかがすいたなぁ。 最後に獲物にありつけたのが半年前のことだった。 あの時は、めったに出会わない団子虫がどういうわけか足を踏み外してくれた。 彼も何か考え事をしていたのか、気の毒だがおいしく生血をいただいた。 あれから何も食べていない。罠の修理に3回動いただけだ。 われわれの行動は蜘蛛と似ている。ひたすら獲物を待って、壊れた罠を時々修理する。一国一城の主っていうところも似ているかなぁ。 忍耐強いわれわれだが、なかにはおっちょこちょいの主もいる。 用もないのに砦から抜け出し、気晴らしに散歩している途中に、こともあろうに私が待ち構えているところに転がりこんで来た。 とんでもない奴だ。 そんなおっちょこちょいもとっさの判断で死んだ真似をしたらしく、転がり落ちた瞬間に動くのを止めた。 動くものにはいちはやく土の噴射攻撃をしかけ、自慢の鋏で引きずり込み生血をいただく、が、動かないものは獲物と認めないのがわれわれ蟻地獄の流儀なんだ。だって罠にかかりそうになると大方のものはじたばたするもんだ。動かないものは血のないものと決まっている。 [一戦交えるよりは、死んだ真似]と刹那に判断した。奴もおっちょこちょいだが、やはり蟻地獄だ。 死んだ真似をする邪魔者は鋏に乗せて放り飛ばしてやるんだ。 それにしてもおなかが空いたな。 でも我慢ならまだまだできる。 一番怖いのは人間だ。 恐れていた日がやって来た。 われわれを観察するとか言って、獲物を待ち構えているところを棒でつつき出され、大きな手で摘ままれ、多くの蟻地獄と一緒に連れて行かれた。 つつき出された瞬間から死んだ真似をしたのは言うまでもないが、人間の手に摘ままれた感触と多くの蟻地獄と肌を接した感覚は例えようのないほど厭だった。私が私でなくなったのはその時からだ。 ひとつ器の中で大勢の蟻地獄たちと一緒に飼われることになったのだ。 餌を与えられ、観察され、時には穿り出されてじろじろ見られ・・・・・そして共食いが始まった。 生き残るのは1匹だけだ。 今は意識も生理もすっかり別物になってしまった。蟻疑獄であって、蟻地獄でない。なんとかしなければ・・・・・」 |
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![]() 左は蟻地獄。2匹の蟻は絶命 |
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