徒然の記

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2005年1月1日(土) 加藤正夫

新しい年の初日。
昨日の雪も消え、青空になりました。
囲碁界に大きな足跡を残した加藤正夫さんが12月30日に逝去されました。57歳でした。
生涯勝数は林海峰に次ぎ歴代2位。タイトル獲得・棋戦優勝数43は歴代5位。
全タイトル(公式7大タイトル)獲得は加藤さんと趙治勲さんのふたりしか達成していないと記憶しています。
日本棋院の副理事長に就任した平成14年、本因坊位に55歳で返り咲き、50代初の本因坊になりました。本当に強い棋士でした。
現在、現役で活躍しながら理事長として囲碁改革に取り組み、今後が大いに期待されていました。特に学校教育に囲碁を取り入れる提案など一部で実現しようとしていました。
将棋の米長邦雄さんと二人三脚で囲碁、将棋を日本文化のなかに再度埋め込もうとしていただけに残念です。
加藤さんが囲碁界にいるだけで何か安らぎと安心感がありましたが、失ったものが大きすぎるような気がします。日本全国の囲碁ファンが悲しんでいます。

2005年1月2日(日) アンフラマンス

デュシャンの造語で『アンフラマンス』と言うのがあります。
微妙な言葉で、何を指示しているのか良くわかりませんが、それについて考えをめぐらしている途中、歯が急に痛くなって来ました。
歯痛は思考を停止させます。
何とか痛みが治まらないかと、痛みに意識を集中させます。頭のなかの構造が歯痛を境に一変します。痛みは呼吸と同じように普通の生活では意識されませんし、しません。
痛みがやわらぎ、治まると、痛みのとき覚え感じた「あの感覚や感情」は消え、何事もなかったかのように普段の状態に戻ります。
「あの感覚や感情」を呼び戻すには、想像力で「普段」から「痛み」へと飛び越える必要があります。
「普段」と「痛み」の境界はぼんやりしぼやけて緩やかな場合やはっきりして急激な場合など程度の差こそあれ、それぞれの状態は決定的に違います。
アンフラマンスとは境界がきわめて薄く、瞬時に飛び越えることできる境界そのものを言っていると、解釈することもできそうです。
『な〜んだ、玄関の扉ではないか!』

「此方」と「其方」の間にある極薄の膜を挟んで自由に出入りし、「此方」にあって「其方」を「此方」あって「其方」を想うことが大切なようです。

2005年1月3日(月) 黒陶

前回うまくいかなかった黒陶、今回はかなりうまくいきました。
前回は籾殻を使いましたが今回は炭を使い、前回より低い温度で焼成したのが良かったようです。また土の条件によってもかなりの違いが見られました。
全体を真っ黒にするのも良いのですが、写真のように変化をつけても面白いように感じました。


2005年1月4日(火) 回転軸と軸受け

デュシャン展に是非とも出展したい作品があるんですが、それには回転軸と軸受けが必要です。
いろいろな人の知恵を拝借してもこれを作るのが大変難しく、既製品の組み合わせでは困難なことがわかりました。
前途多難で考えあぐねていたとき、頭の片隅にある人の名前が浮かびました。
「中島さんだ」
名前が浮かんだとき、もう解決したと思いました。
工房から10キロ、車で15分の距離で近いのですが、2年間くらい逢っていないような気がします。昨日早速連絡すると、快く相談に乗ってくれるということで今日の午後、中島宅を訪問することになりました。帰省中のご長男ご夫妻の居られるなか貴重な時間を割いていただきました。
ポイントを話すと、瞬く間に理想的な軸と軸受けが出来上がりました。
後は私が作品をつくるだけとなりました。
中島さんは帆船模型の作り手です。
研究者の豊富な知識と探究心、職人の技術、それに芸術家の感性を併せ持った人で、中島さんの手になる帆船は素晴らしいの一語につきます。
ものづくりをされる方は中島さんのホームページをご覧になると参考になると思います。

中島寛治さんのホームページ









帆船模型づくりにもご覧のようなマシーンが必要


軸受けの穴を開けている


中島さん、ありがとう

2005年1月5日(水) 小寒

年が明けて晴れの日が続いていましたが、目覚めてみるとうっすらと、雪。
かなり冷えています。
今日は二十四節気では『小寒』にあたります。
寒の入りで、寒さはこれからが本番です。


2005年1月6日(木) 

時々車で通る道沿いにススキの親分のような萱が自生しています。
一年中枯れずに青々としています。
名前がわかりません。水辺ではないので葦ではないはずです。
茎はヤダケのようです。なんと言う植物なんでしょうか?


背は4メートル


茎はヤダケのように太い



2005年1月7日(金)  Please Touch

マルセル・デュシャンは1947年パリで開催されたシュールレアリズム展のカタログの表紙のデザインをしています。
これは先日のデュシャン展でも展示されていました。
黒いビロードの上に石膏型で乳房を模ったものです。
「どうぞ、お触れください」とでも言うのでしょうか。

シュールレアリズム展のカタログの表紙




デュシャンはシュールレアレストというよりダダイストですが、こんな仕事もしているのです。
作品の意味するところは、ちょっとわかりませんが、私は下のような作品を作りました。
ambivalentをイメージして作ったものです。

2005年1月8日(土) 赤の他人

『「あかの他人」のあかって、どう書くの?』と子ども。
『赤って、書くのよ』とお母さん。
『なぜ、赤なの?』
『赤は梵語で水を意味する「閼伽」が語源になっているんだ』と博学のお父さん。
『全くとか、明らか、とか言う意味で、「赤の他人」のほかにも「赤っ恥」「赤裸」「真っ赤なうそ」などもこの意味よ』とやさしいお母さん。
『なぜ「水」から「全く、明らか」の意味になったの?』
『それは、自分で推理してみなさい』とお父さん。

2005年1月9日(日) 霜の朝

グッと冷え込みました。
朝の光を受けていい感じ。
霜柱ができていないか歩いてみましたが、残念ながら見つかりませんでした。
昔に比べると気温が高くなったものです。




この日は一瞬、雪が舞う


2005年1月10日(月) 霜の朝〜2

昨日よりさらに気温が下がりましたが、やはり霜柱は発見できませんでした。
7〜8km北の標高の高い「天王」まで行くと、霜柱は毎日でも見られるのでしょうが。
「天王」までのR173は深夜から早朝にかけて路面が凍結していることが多いので気をつけて運転しなければなりません。よく事故が発生する交通の難所です。

2005年1月11日(火) 『一つの内部と、二つの窪み』

作品の制作がなかなかはかどりません。
『一つの内部と、二つの窪み(仮題)』はなかなか形が決まらず、湿らせた状態のままいつでも形が変えられるように保管しておいたものですが、最終的にこの形になりました。
内部と外部は一枚の連続する壁がつくる状態とも言えます。


これはまだ粘土の状態です

2005年1月12日(水) 花びら餅

風気倶楽部の寺井さんが昨日、自作の花びら餅を持って来られ、みんなで、といっても3人でいただきました。
上品な味でおいしく、ほっぺたが落ちそうになりました。
今日、風気倶楽部の元気のよい船磯さんと岡田さんが見えられ、食べる前に写真を撮ろうと言うことになりました。
私は構図的には上の方の写真が良いと思って撮影したのですが、ふたりからクレームがつき撮りなおし。
「上から撮らないと花びらの形が分からない」との指摘で下のような写真を撮りました。
「これなら良く分かる」とOKがでました。

寺井さんが持ってこられたときはきれいな形をしていたのですが、器に移し変えたり、配置を変えたりしているうちに変形し、すっかり形が変わったようです。
でも、どう見ても上下がさかさまになっているようです。
弧の部分が下になる方が自然です。


私の決めた構図。やはり花びら餅の形が良く分からない


花びら餅の形は分かるが、どうも上下が逆、向こう側から撮影すべきだったか!

2005年1月13日(木) 

寒気のなかに煙がたなびいています。
なかなか良いものです。


若い杉も天に向かって伸びています。


2005年1月14日(金) 『玄舟』

大海に漂う二そうの小舟。
何をおもい、どこに行き着くのか?

まだ制作途中で粘土の状態です。
ひとつは黒、ひとつは白+緋色に仕上がる予定です。


2005年1月15日(土) 大相撲

昭和14年の1月15日、大横綱、双葉山の連勝が止まった日です。
西前頭3枚目の安芸ノ海の外掛けに破れ、69連勝でストップしました。
当時は年2場所11日制で、昭和13年5月場所から13日制となっていますので足掛け3年無敵だったわけです。
双葉山に次ぐのは53連勝の千代の富士。大鵬の45連勝。双葉山の38連勝。
それに昨年記録した朝青龍の37連勝と続きます。
朝青龍は記録から見れば大横綱の仲間入りをした感があります。今場所も強い。
今場所注目の魁皇の綱取り、若の里の大関取りはいずれも絶望。
白鵬、琴欧州などの若手の躍進が著しく、なんだか世代交代の波がやってきそうな気配です。
それにしても外国勢の強さが光り、日本人はどうなってしまったのでしょうか?



2005年1月16日(日) 陰陽

動いているのに止まって見える。
まるで、上手な人の轆轤上の粘土の動きのようです。

止まっているのに動きを連想させる。
陰を含んだ陽、陽を含んだ陰。
大極図です。

大極図


『大極図を素にデュシャンがロトレリーフを創ったこと』は昨年のデュシャン展で発見しましたが、私は三次元でこのイメージを表現したいと思っているのですが、なかなかうまくいきません。
時間がない。このテーマはもう少し深めないといけません。

ロトレリーフ



まだ粘土の状態

2005年1月17日(月) 大地に還る

工房の周囲の落ち葉は掃かないのでそのまま大地に還ります。




なかなか美しい

2005年1月18日(火) 『Self-Portrait in Profile』〜3つ目の応え

昨年のことで恐縮ですが、12月16日に『Self-Portrait in Profile』について書きました。
3つの応えを無理やり用意していると述べていますが、最後の3つ目です。

ローズ・セラヴィとはデュシャンの女性名と解することができます。
ローズ・セラヴィとデュシャンは陰と陽の関係にあります。

ローズ・セラヴィに扮したデュシャン


まさに『Self-Portrait in Profile』がそのことを暗示していたのです。
私の作品はまたしても制作中です。
なかなか乾かない。


素焼き後、少し手を加えて完成させる予定ですが、どうなることやら。


2005年1月19日(水) 夕焼け・木・カラス

日没間近の東の空。
太陽の反射を受けて雲が穏やかな色に染まっています。
偶然、カラスがフレームのなかに入って来ました。
ねぐらに急いでいるのでしょうか。


2005年1月20日(木) 大寒

一年で最も寒いと言われている大寒。
今年は1月20日だそうです。
工房の水溜には薄氷が張っています。
そんなに寒くはないようです。
木のイスには、水の結晶のキラキラ光る様子が見てとれます。

今日は太陽の恩恵を受けました。
一日中、太陽が顔を出してくれたお陰で水分を大量に含んでいた作品が乾きました。
どうにか明日の素焼きができそうです。




キラキラ輝いてきれい

2005年1月21日(金) コガネムシ

素焼きをしているところに松宮さんがやってきました。
『徒然の記』に時折登場する友人です。
好奇心旺盛で、絶えず少年の心を持ったやさしい人です。
今は鉱物に凝っていて、鉱物採集に夢中です。
その彼が、窯場でカラカラに乾燥したコガネムシを見つけました。
触覚が無くなってはいますが、比較的きれいな状態なので写真に撮りました。
どうやらセンチコガネという種類のようです。



2005年1月22日(土) 十能、五徳、七輪

ちょっと入用があって小さい十能を買いました。
薪で風呂を炊いていた頃はどこの家庭にもあった道具ですが、今では十能を見かけることはめったにありません。
そういえば、火鉢や囲炉裏を使っていた頃は五徳がありました。
七輪もすっかり姿を消してしまいました。
燃料としての薪や炭が、ガスや電子レンジ、IHヒーターへと移っていくに連れ、かつての道具を見かけなくなりました。
昔の道具は漢字の字面を見ているだけで何か動き出しそうな気配があってイイですね。

2005年1月23日(日) 近藤鉄工房

回転する作品の軸と軸受けは中島さんにお願いして作っていただきました(1月4日の徒然の記)が、それを固定する台が問題となっていました。
当初陶で作る段取りでしたが、問題点が多々あって最終的には金属で作ることにしました。
そこで知り合いの近藤さん宅に知恵を拝借に出かけました。
近藤さんは三田市の最北部の永沢寺の村はずれの工房で鉄の仕事をされています。
プランを話すと、仙人かお坊さんのような風貌の近藤さんはたちどころに2〜3の施工方法を授けてくれました。
近藤さん、ありがとう。


さすがに寒い。向こうに見えるお坊さんのような人が近藤明さん。正面が工房。左が住居。




制作中のストーブ

2005年1月24日(月) 近藤鉄工房〜つづき

私の工房に近藤明さんの作品の写真が貼ってあります。
数年前のカレンダーの写真を切り取ったものです。
時々、気にかけてくれる人がいます。



近藤さんの作品はここをクリック


2005年1月25日(火) 菅原道真

901年の1月25日菅原道真が大宰府に左遷された日です。
学生時代の一時期福岡にいた折、太宰府天満宮から宝満山に何度か登ったことがあります。
福岡市内が展望できる山です。
道真は大宰府に流されて2年後に亡くなっていますが、宝満山には登っていたのでしょうか?

2005年1月26日(水) 『デュシャンの窯』を焼く

『デュシャンの窯』を焼きました。
乾燥の仕方が悪く乾燥途中で内部に少しひびが入ったため、同じような窯をもうひとつ作りました。
こちらの窯は、乾燥期間が短く乾燥不十分で素焼きで少しひびが入りました。
素焼きしたふたつの『デュシャンの窯』に作品を詰め、炭を燃料に焼きました。

この窯の焼成過程は、デュシャン芸術の構造を端的に示していると私は考えています。
窯の「風」「燃料」「作品」「炎」はデュシャン芸術の「魂」「易教・老荘・道教」「作品」「現象(影響力/情報)」に当たります。風は空から空へ吹き抜けます。


一度に三つの窯を焼く。手前二つが『デュシャンの窯』


火の粉が花火のように舞う。


2005年1月27日(木) 『デュシャンの窯』の作品

『デュシャンの窯』の焼成作品です。
白土を主に使ったためごくあっさりした作品になりました。


前のふたつは鉄分を含んだ土で作ったものです

2005年1月28日(金) 鑑賞・観賞・観照

広辞苑によると、
鑑賞……芸術作品を理解し、味わうこと。
観賞……見て楽しむこと。
観照……対象を主観的要素を加えずに冷静な心でみつめること。
    [美]美を直接的に認識すること。(美)の直感。美意識の知的側面の作用を表示する概念。
とあります。
「かんしょう」の段階からいうと、
「観賞⇒鑑賞⇒観照」の順に高度な「かんしょう」になるようで、観照するには良いものをたくさん鑑賞することの他に、内面の成長、人格の向上が求められてくるのでしょう。
つくるほうも同様に人間的成長が必要になってきます。
突然、妙に真面目なことを言い出した気もしますが、「何をもって美とするか?」ものづくりに携わる人なら誰もが自問自答する課題なのでことさら変でもないのですが、揺れながら考え続けたいものです。

2005年1月29日(土) 『座す』

写真のやきものの内部は空洞になっています。
細い炭が斜めに一本つっかい棒のように底と肩に当たっています。
肩の部分はそのため盛り上がり、座禅でもしているような面白い表情を作ってくれています。
それにしても、粘土を変形させるほどの強い力が炭のどこにあったのでしょうか?
燃えもせずに。

2005年1月30日(日) 『樞始得其環中、以應無窮。』

荘子の齊物論に出てくる言葉です。



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